【第二章】『3』         

キーン・・コーン・・
授業開始のチャイムの音
俺は授業を聞く気になれなかった・・目の前で広げられているのにも関わらず。
先生が黒板に白、黄、赤色のチョークで授業を行っている。赤・・俺は龍のあの事件いらい赤という色が嫌いになった。元々あまり好きではなかったが嫌いというレベルには達していなかったのに。
『血』はどの人間にでも流れているもの・・赤というか赤黒い。刃物一つで体に少し刺したならば出てくる。血の量によってこの世からいなくなれる。人間は死にたいときにいつでも自分で自分を殺せるんだよな・・糸を切るみたいに簡単に。
ふぅ・・ため息をついていると偶然にも先生が横を通る。
「ため息をついているが、そんなに俺の授業はおもしろくないか?」
「ゲッ」
あまりにも驚いたので本心をそのまま口にしてしまう。
「小杉、全然ノートとってないじゃないか・・しかも俺の顔を見るなり『ゲッ』だと?もうすぐ中間テストなのにえらく余裕だな」
俺はこの先生が苦手だ。すぐつっかかってくるし・・まぁここは素直に謝っとくのが一番だよな。
「すみませんでした・・これからは気をつけます」
頭をぺこりとさげ、謝る。すると先生は授業を再開した。
あーあ・・朝からついてない・・頭の中が二人のことでいっぱいだからか・・?
稜平にもぼーっとしてるとか言われるし、駄目人間だな・・本当。
と、なんだかんだ言ってる間にも時間は刻々と過ぎ昼休みに入っていた。俺は食欲がないから何も食べず教室を見わたした。稜平は相変わらず教室にはいない・・昼食をとらずにいつもどこに行ってるのやら。
稜平は日常のことを何も話さない。この学校に友達と呼べる奴はいないだろう・・
俺は中庭で時間をつぶそうと思い足を進めた。すると横切る人影が見覚えのある物だと気づき歩みを止めた。青い髪の毛で小柄な龍、制服ではなく私服を着た龍が俺が龍の姿を目で追っていても、俺など眼中にはないといいたげに歩みを止めることなく進んでいる。
「何でここにいるんだ・・?」
退院をしたのは知っている・・だが部屋に戻ってこないで丸一日どこで何をしていたんだ・・俺はこっそり龍のあとを追った。
龍は歩みを止めることなくひたすら自らの目的地に向かって歩いていた。俺は時間のことを気にしながらも龍の向かう場所の予想をしていた。
こっちの方向は・・化学室?でも何でそんな所に?俺の予想が当たったのか龍は化学室の前で歩みを止める。
俺はその時自分の目を疑うしかなかった・・目の前にいた人間が一瞬にして全く別人の人間になっていたのだから・・。
髪は綺麗なピンク色、その髪を腰の少し下あたりまでのばした綺麗な髪であった。身長は龍とはあまりかわらないぐらいだ・・
『女・・だよな?』内心そんなことを思っているとピンク髪の女が勢いよくこっちに振り向いた。
「あーあ・・ついてきちゃった。私の姿見ちゃったんだ君は・・」
ピンク髪の女は俺に話しかけてきた・・しかし彼女は最初から俺が着いてきているのを初めから知っていてその姿になったとしか考えられない。
「よくわかってるじゃん。駄目人間の割に・・まぁそれぐらいは出来るか。君も普通の人としてのレベルには達しているわけだ」
え・・俺何もしゃべってないけど・・
「私は普通の人と違うのよ。心くらいはよめるわよ、バカにしないで」
心が・・よめる・・?確かに彼女はそういった・・普通の人間ではないと・・頭の中がグチャグチャになっていく。
「何考えてるの?龍と稜平のこと・・ね。あの二人を知ってるんだ」
彼女は俺の心、考えをよんでいく。四日前の龍、血に染まった病室・・頭にはしる全てのことを彼女によまれている。
「あっ、そうか。君には一度助けてもらってるんだっけ?あの時ナースコール押してくれたの君だったよね?でも余計な事はしなくていいんだよ。あの時君が医者を呼んだせいであいつがまだ生きてる・・」
「ありがとう」なんて言わない・・そんな顔で俺を睨み付ける。
あの時血まみれになっていたのは龍ではなくこの女?じゃあ、俺が知っている龍は・・?混乱していく俺の頭・・その考えをよんでいて俺の混乱をわかっている彼女は笑みを浮かべていた。

キー・・ン・・コーン・・
俺たちの間の嫌な空気を助けてくれるように予鈴が鳴り響く。
彼女は何も話さなくなった・・ひたすら俺の考えをよんでいるのか?でも、そろそろいかないと授業に遅れる・・早くこの場から立ち去らないと。
「授業が始まるよ・・遅れたら大変だし早くいきなよ」
この場は彼女から逃げることが出来た。彼女を怖いと思ってしまう自分がいた・・彼女は恐ろしい・・雰囲気でもただならぬ物だと感じた。
龍があの女・・?謎だらけの人物、近寄りたくないのに近づかないと何もわからない・・そんな気がする。

慶が行って桜は化学室に入っていく。
「何を話していたんだ・・?」
淡々とした声が暗闇に響く。
「何もないですよ。ちょっとした世間話です」
桜はニコっと笑って軽々しく答えた。
「あいつらのルームメイト、小杉 慶とか?」
暗闇で話すその声の主は昴であった。桜は昴とこの化学室で待ち合わせしていたのだ。
「昴さん、そんな話はどうでもいいです。だから行きましょう」
「あぁ・・行こうか、桜」

二人はこうして化学室を後にした。
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