【第二章】『4』       

俺は彼女と別れた後授業を受けずに寮に戻っていた。
彼女は龍の姿をした謎の人物・・龍のことだけじゃなく稜平のことも知っていた。一体誰なんだ・・?
『普通の人間』ではないと言っていた・・確かにピンクの髪なんてそうはいない・・普通の人間ではないのを物語っているるかのようなピンクの髪。
二人のことを考えたくないのに・・どうしても考えてしまう。少なくとも彼女のことを二人とも知っている・・俺はいつも置き去りだな・・何も話してくれないし、相談もされない。
彼女に言われた言葉
「普通の人としてのレベルには達してる」
俺の頭に響く・・そんなことはない。駄目人間でしかない俺という人間・・必要とされない不必要な人間。
人間はすぐに壊れてしまう脆いもの・・本当に脆い・・そう感じる。

キーン・・コーン・・・
5限目の始業のチャイムが鳴り響く
その音と同時に俺は教室に入った・・教室を見わたして慶がいないことに気づく。
「あいつどこいったんだ・・」
あいつが好きな体育の授業のはずなのに机には体操着がかかったまま。
俺はこのとき桜と慶が接点を持ったことを全くしらなかった・・
「サボリ」だと普通に思い込んでいた。体育の授業で誰もいない静かな教室・・俺は考えていた。
桜のことを・・俺はもう桜には会えない・・本気でそう思う。
「何をぼーっとしている?授業はどうした」
突如教室の戸が開く・・そう、俺の前に現れたのは俺がもっとも嫌いなあの人であった。
「いい知らせだ・・本体は、いや龍はまだ生きてる。良かったな」
口調は変わらないが顔はいつもよりはるかにいい表情をしていた。
龍が生きてる・・?生きてる・・   理解するまで多少時間がかかった・・
俺は嬉しかった。龍が生きてるのなら桜は・・生きていられる。
そう思え、心から安心できたのだから。
あの人はそういうとそれ以上なにもいわず教室を去っていった。

キーン・・コー・・ン
一日の授業の終わりを告げる鐘の音。
6限目にも顔を出さなかった慶を少し心配した。しかし、寮へ戻ると慶はぐっすりと眠っていた。
心配して損したな・・こいつはこーいう奴か・・しかし龍のことをこいつには何も話してやれてない・・退院してることは知っているだろう・・『何故、寮に帰ってこないのか』と聞きたくて仕方ないだろう。しかしこいつは何一つ俺に聞かない、気になって仕方ないだろうに。
『ただのルームメイト』だから話せない・・これ以上巻き込みたくない・・だから。

桜と昴
「今日はどこに行きたいですか?」
とても明るい口調で桜は話しかける。それに対して・・
「・・・・」
何も答えない昴がいた。桜はその態度にムッとしてとっさに昴の眼鏡を奪った。
「ほーら、何も見えないでしょう?」
昴に意地でも話題にのってもらおうと必死だった。しかし、相変わらず無言のまま。意地でも話さない・・そんな感じだ。桜は頬を膨らませ昴につっかかった。
「もう!!何で話題に乗ってくれないんですか!?機嫌悪い理由あるの!!?」
「・・・」
それでも何も話さない・・桜はそれでも諦めなかった。
「んもう!じゃあ・・あの人に会いに行こう!いいよね?」
ニッコリ笑って昴の答えをまたずに強引に連れて行こうとした。しかし、昴は足に力をいれてふんばって動こうとはしなかった。
「んもー!!何も言わない昴さんが悪いんだよ!早く行こうよ!」
硬く口を閉じ、動こうともしない・・桜は黙り込んでしまう。桜は人の心、考えをよむことが出来るが、昴のはよむことが出来なかった。
「ひどいよ・・私、昴さんの何もわからないじゃん・・さっき何処いってたのかも教えてくれなかったし。次はあからさまに無視・・何がしたいのよ」
俺は桜のことを無視していた訳ではない・・桜の中の龍をさぐっていただけ。いつまでもこの姿のままでは龍の、そして桜の体の負担が大きくなるだけ。
早く龍の体に戻してやらないと・・意識はまだないのか・・龍、早く・・早く・・。
「・・・・何も聞こえないの!?この耳はーーー!」
まぁ、いつまでも龍をさぐっていても出てこないときは出てこない。
「うるさい・・少しは静かにしてろ・・」
俺の耳まで引っ張ってくるようになったので仕方なく返事した。すると目の前の桜は少し怒ったような表情で俺を見る。
「やっとまともに口きいてくれましたね・・眼鏡はしばらく返しませんから・・」
あぁ・・そうか眼鏡がないのか・・どうりで目の前にいる桜でもぼやけて見えるわけだ。
ちゃんとした現実が見たくて、ぼやけてない世界が見たくて眼鏡をかけてる・・
「さぁさぁ♪いきましょー!」
どこに行くのか?もしかして俺が龍をさぐっている間に行く場所が決まったのか・・
俺は仕方なく何も言わず桜について行った・・ついた場所は墓地であった・・
桜は歩みを止めることなく進む。目的の墓についたのか桜は満面の笑みで挨拶する。
「こんにちは友里さん!昴さん連れてきたよ〜」
そう、この墓に眠っているのは粒木 友里・・俺の姉さんであった。
明るい声で話しかける桜は無邪気に笑っていた。会ったこともない人物なのに・・俺は姉さんが死んでから一度もここへは来たことがなかった。姉さんの死を『本当のこと』だと実感したくなかった・・
桜は会ったこともない人間の墓参りに何度も来ていたのだろうか?俺がこの16年間信じたくなくて逃げていたこの場所に。
姉さんの顔を今でもハッキリ覚えてる。いや、忘れたくないだけだ・・『生きてる』そう思いたかったから・・その顔を、姉さんを忘れたくなくて俺は「桜」を作った・・どうしても忘れたくなかった。
同じようにはいかなかった・・「同じ人間」はこの世に二人いない・・当たり前のことなのに・・俺は悲しくて仕方なかった。しかも桜自身そのことを知らない・・「君の元は俺の姉さんなんだよ・・」と俺には言えなかった。
桜は俺ではなく稜平を必要としている。今のままではあの時の姉さん二の舞なる・・もう嫌だ・・姉さんが死ぬのは見たくない、苦しむ姿は見たくないんだ・・。
「またぼーっとしてる!友里さんに挨拶しないの?」
何もしらない桜は俺に姉さんに挨拶するよう進める。
「俺はいい・・さっさと帰ろう」
するとその発言の直後雨が降り出した。まるで姉さんが「帰らないで」と言っているかのように・・俺はその時桜を自分の腕の中へやっていた。
「ごめん・・姉さん・・」
桜を出し締めながら俺はひたすら姉さんに謝っていた。謝っても、何をしても死んだ姉さんは帰ってこない・・桜が姉さんにしか見えなくなっていた。頭では理解していたはずなのにそのときの感情が俺をそうさせた。
桜は何も言わずそして何も聞かず、俺の腕の中にいてくれた。
雨が止み、夕日が沈むそのときまで・・
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