【第二章】『1』         

桜が消えて一週間がたった頃、龍の意識はまだ戻っていなかった。
『あいつの体をメチャクチャにしてやる』
桜の言葉が気になって仕方なかった。稜平は桜が言ったことは必ず実行することを誰よりわかっているからだ。
俺は確かに桜にひどいことを言ったかもしれない、しかしあの時「龍」ではなく「桜」と答えていたら桜は調子に乗って
龍の存在そのものをその場で消していたかもしれない。
「まだ、「龍」を桜の体から消すわけにはいかない・・でないと桜が死んでしまう・・と。
稜平は悩んでいた。突然背後から声がし、稜平は振り返るとそこには昴が立っていた。
「お前は一体何をした?龍に、そして桜に何を言った」
俺はこの人を決して好いてはいない、見ているだけでイライラする。龍の体ばかりを心配して俺なんて眼中にないからだ。
「俺は何も言ってないですよ。本体のほうにはね」
そう答えた俺に昴はすごい勢いで睨みつけてくる。
「お前はやはり失敗作だな・・」
低い声でボソっと呟いた後その場を後にした。そんなことは言われなくてもわかってる。
「失敗作」今まで何度この言葉を言われたかわからない。
「失敗作ならさっさとこの世から消してくれよ・・」
ずっと願ってきたことだが今、さらに強くそう思う。

「おーい、稜平あそぼー」
遠い意識の中で誰かが呼んでいた。逆光のせいか顔がはっきりみえない・・しかしこの声・・顔は見えないがその雰囲気は 慶に似ている気がした。
でも、俺が知っている慶ではなかった・・5.6歳の子供?俺は幼い頃慶にあった記憶などない・・
しかし、どうして幼い頃の慶が夢に出てくるんだ・・しょせんは夢か?
幼い頃の慶と俺は二人で遊び始めた。昔俺がよく遊んだ公園で・・
しかし、突然背後から白衣を着た女性が笑って俺を呼ぶ声が聞こえる。どこの誰かもわからない人なのに俺は慶と遊ぶのをやめ 駆け足でその人の元へと走る・・太陽がまぶしく照らし女性の顔ははっきりしなかった・・しかし・・ピンクの長い髪が腰まであるまだ若い人・・まさか・・

ふっと俺は夢から覚めた・・
「さっきのは・・夢?夢だよな・・」
そんなことがあるわけないと思いたくて夢なのだと思い込む。
急に部屋の戸が勢いよく開いた。
「稜平・・龍が・・龍が・・」
あまりにも急いでいるようだったので頭が混乱していながらも慶をおいかけていった。
着いた場所は龍が入院している病院だった。龍の病室にいくとそこは真っ赤な部屋になっていた。しかも、
「おはよう稜平・・・私はあいつを殺したのよ・・これで私だけの体よね」
外見は龍、中身は桜という状態であった。
「な・・んで・・なんで・・」
しかもベッドのシーツやカーテン、壁など真っ赤なシミがついている。
龍を殺す為に桜が行ったこと・・それは手首、足、胸、首などいたる所を刃物で傷つけ精神的なショックで龍を殺したのだ。
どうしてこんなことになったのか・・俺は目の前が真っ暗になった。

慶はただ龍が自殺行為をしたとしか思ってはいないだろう。
俺は全てを知っていて目の前で真っ赤に染まった服をきて血に染まった手で俺を抱きしめようとしているのがだということもハッキリわかる。
慶がナースコールを鳴らし医者が急いで止血をする。桜は自分の体を制したのにも関わらず痛みさえも感じないのかずっと俺の方を見て笑っていた。
俺はその時こいつを敵にまわしたことをものすごく後悔した。ものすごく恐ろしいと・・
とりあえずたいした傷ではなかったので俺と慶は安心した。
「どうしても、この体が欲しいのよ。もう誰にも邪魔させない」

俺はとりあえずあまり好いてない人物「昴さん」に電話をする。すると驚きもせず俺の話す今日の龍(桜)の出来事を淡々を聞いていた。
「いらない自我が目覚めだしたな。まぁそれを止める為にお前がいるんだ・・まだ龍には死なれては困る・・わかるな?」
相変わらずの口調で俺に話す。
「まだ龍にはやってもらうべきことをしてもらってないんですよね。それをしてもらわないと桜が・・いなくなる」
俺は桜がいなくなるのはたえれない・・誰がなんといおうと大切な人だから。
「俺たちの研究が上手くいったか、いってないのか、答えが出るのはまだ先になりそうだな・・じゃあ、失礼する」
あの人は俺たちをただの研究材料としか見ていない。龍は成功作、俺は失敗作・・失敗作が恋しちゃいけないのかよ。どうして・・俺はここにいるんだよ・・・・さっさと消してくれよ。

【あとがき】
桜は自分の目的の為ならなんでもしてしまう子ですね。
怒らせたら怖いタイプの女の子ですので稜平も苦労が多いかと・・
頑張れ、稜平・・
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