【第一章】『3』         

俺はふと目が覚めた。あれからどれぐらいの時間ががたったのだろう。
時計は一時をさしていた。
「この時期になるといつもそうだな・・いい加減嫌になるよ」
俺は『SAKURA』のことをどれぐらいわかってやれてる?
いや、わかってないからSAKURAは俺の意思を無視して勝手に稜平に会いに行くんだろう。
一緒にいても何もわかってやれない、これじゃあ一緒にいる意味がないじゃないか・・。
一緒にいても、会話の一つもまともに出来ない。出来るのは『SAKURA・YUI』として送ってくれる手紙を読むことだけ。
SAKURA・・生まれてからずっと一緒にいる。いつになったら俺を解放してくれる・・?
SAKURAのことをいつになったら解放してやれる・・?

SAKURAは俺に一つの質問をしたことがあった。
「どうして桜はこんなに寂びそうに散るの?」
春という季節の訪れを告げ、役目を終えて散る。当たり前の答えなのに「寂しそう」この一言の意味を考えると俺は君の質問に答えることが出来なかった。
「まるで桜って私みたいね・・」
SAKURAの答えを聞きたくなかったから・・。 『運命の子』として生まれた子・・かわいそうな子。
「私も役目を終えたら消えるの?」
SAKURAの泣く姿をもう見たくない、泣かせたくない何より大切な君のこと。
だから質問には答えてあげることは出来なかった・・。
SAKURAは俺が質問に答えないのを不自然に思った・・。
「どうしたの・・?」
大きな目で俺を見る。可愛らしいぱっちりとした瞳で・・。
「ずーっと一緒にいようね」
ずっと一緒・・それはきっと叶わないこと。君が一番よくわかっているはずなのに、どうしてそんなことを言ったのか、その時はよくわかっていなかった。
「あぁ・・ずっと一緒だ。ずっと・・な」
SAKURAは笑った。俺が一番欲しい笑顔で。
今ではあの言葉の意味がわかる。
『もし、SAKURAがいなくなっても気持ちだけは稜平のそばにあるよ。ずーっと一緒だよ』
と言いたかったのだろう。
SAKURA.・YUIとしてどれぐらい俺のそばにいてくれるのだろう・・好きな人はいつか目の前から消えてしまう。その日は刻、一刻と近づいていることを俺は今改めて実感した。

龍として生きて16年、SAKURAとして生きて10年・・小さい時母さんは俺を見ようとはしなかった。
俺を見ると母さんはおかしくなるから・・。何かわからないことを叫んで叫んで・・泣いていたのを今でもハッキリ覚えている。
「ちゃんとした子に生んであげられなくてごめんね・・」
その頃は母さんが何をいっているのかわからなかった。だってその頃の俺は元気で周りの子と何一つ変わらない普通の子だったから。
SAKURAの存在には全く気づいていなかったからだ。
母さん、今なら言える・・
「俺のことを生んでくれてありがとう」
と・・。SAKURAとして龍として生んでくれたことを。
俺はある一時期の記憶がない、そしてそれは今でも続いている。
何があったのだろう、思い出したいのに思い出せない。
「・・・・を・・・したのよ・・」
頭の奥から声がする・・誰だ・・。
それは俺のもう一つの人格SAKURAのものだった。
10年間で初めて俺に話しかけてきた。
「あなたが・・を殺したのよ・・」
声がよくきこえない・・もう一度言ってくれ、お願いだ。
「お前が・・母さんを殺した・・?」

すると周りが騒がしくて目が覚めた。
え・・夢?俺また眠っていたのか、それにしても懐かしい夢をみた・・母さんの夢、そして・・
「かなりうなされてたけど大丈夫か?」
慶が目の前に座っていた。そうか、学校はもう終わってる時間だよな。
「一回食堂まで来たのにすぐいなくなったから心配したんだぞ」
俺、食堂なんて行ったけ?またSAKURAか?
ずっとずっと俺の意思を無視して行動してきたもんな・・
「やっぱり体調悪くてさ、学校休んだんだ」
「ふ〜ん・・そういえばメシの時間になったんだけど食べにいけそうか?」
慶が俺の顔色を伺いながら聞いてきた。
「あぁ、行くよ。着替えるから先行ってて」
そう俺が告げると慶は首を縦に軽くふって部屋から出て行った。
あの夢は現実の物なのか・・?俺が母さんを殺した?母さんは俺が小学校一年の時に死んでいる。
でもあれは・・階段を踏み外して・・えっ・・
「あなたはその時自分が何をしていたか覚えてる?」
SAKURAが俺に問いかけた。だって俺はその時の記憶がないからだ・・
「あなたがお母さんを殺したのよ!!」
SAKURA・・お前は何を言ってるんだ・・俺が母さんを殺す理由なんてないのに・・」「確かに記憶には残ってないでしょうね。でもあなたはお母さんを殺した・・これはどうすることも出来ない事実なのよ」
その言葉を残してSAKURAはまた俺の意思の奥へと戻っていった。
「何で・・何で・・どうして?」
こんなことなら知らなくて良かったのに・・何で今頃こんなこと言うんだよ。
「おい、龍どうかしたか?顔色が悪いみたいだが」
いきなり背後から声がした。その声の主は稜平であった。
「・・・お前にはわからねーよな、俺でもわからないのに」
稜平に弱気な自分の姿を見せたくない。でもSAKURAの一言は龍の精神状態をボロボロにした。
稜平の目の前で泣き崩れた。男の前で泣くのはこれが初めてだろう。
「一体どうしたんだ・・おい、龍」
「本当のことを教えてあげたのよ。何も知らないから。幸せそうに普通に暮らしてる姿が気に入らないから。少しは苦しめばいいのよ、私が味わったようにね」
龍を心の奥へと押し込めてSAKURAが出てきた。
「お前は本体をいじめて楽しいか?いい加減にしろよ。お前は一人では生きられない。龍の体があるから生きてられるんだ。なのに・・」
「稜平は一体どっちの味方なの?私?それとも龍?」
当然私よね?そんな自信に満ち溢れた顔で問いかける。
「この場合は龍だな。今はお前の味方は出来ない。」
SAKURAの表情が曇ったように見えた。
「何でよ・・何でこんなバカな奴の味方するの!?私は、私はあなただけを信じてきたのに・・なのに、あなたまで私を裏切るの?ねぇ?」
SAKURAは俺に同情を求めていた。大きな目に涙をいっぱいためて・・
「別に裏切りはしない・・でもお前の行動しだいで裏切ることにはなるだろうけどな」
「・・・・もういい・・あなたなんか敵でもなんでもなればいい・・私を敵にまわしたこと後悔させてやるんだから。この体だってメチャメチャにしてやる。あいつをこの体から消す為にね」

第一章 終

【あとがき】
第一章おわりました・・
最初予定していたさくらとはえらい性格の違う子が出来た感じ・・
私はあまりこういう子好きじゃないんで扱いがひどいかも・・(笑
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