【第一章】『1』『もう一人』     

2003年春、寮制度の甲西高校にも新入生が入ってきた。
新入生の一人が俺、小杉 慶。

入寮日一日目、俺は初めてルームメイトに会う。
寮は三人部屋、言い忘れていたが男子校だ。

「カチャ」と一人目が俺のいる302号室のドアを開ける。
「あ〜俺が一番だと思ったのになぁ・・残念」
一人事を言っているルームメイト(?)に俺はなんと話しかけたらいいかわからず、黙ってしまう。
「うっそー!残念がってないよー♪気にしちゃ駄目だよ〜」
ニッコリと笑い俺の緊張をほぐすかのような口調で話す。
「・・・いや、別に気にしちゃいないけど・・(変わった奴だ)」

しばらく普通に会話をしていると、俺はもう一人のルームメイトが来ないことに気がついた。
それと、今更ながらこいつの名前も聞きそびれている。
「あのさぁ、今更なんだけど名前は?」
俺は不器用だからさりげなく聞いてみることにする。
「あっ、なるほど。名前はね、井ノ江 龍」
『龍』名前のイメージとは違う奴だ・・背も小さいし、声も外見も幼い。『大人っぽい』と思ったの
だが、でも人は外見で判断する物ではないし。
よし、この調子でもう一つのことも聞こうとした。しかし
「さぁてと、部屋の片付け再開するかな」
龍は会話を止めてしまい部屋の片付けを始めてしまった。俺も片付けを始めるが、荷物が少なかった
ため、龍より早くおわってしまう。
「もう一人は遅いな・・」
俺は考えていたことを素直に口に出してしまっていた。その瞬間、龍の表情が曇ったようにみえた。
「あぁ・・稜平は一週間遅れて入寮するよ」
ボソボソとつぶやくような感じで俺に言ってくる。
「そうなんだ」
龍の表情は曇ったままで、俺はそれ以上何も言うことが出来なかった。

そんなことがあって一週間がたった。
そう、今日は稜平というもう一人のルームメイトが入寮する日。
朝、龍は全く口を開こうとはしなかった。いつもは明るい龍なのに・・そんなに稜平に会うのが嫌なの
だろうか・・。
俺はこの時、これから起こることを何もしらなかった。

チャイムが鳴り一限目の始業を告げる。古典の先生はいつも時間通りに来る。しかし10分・・15分と
時間はたつばかりでいっこうに先生はあらわれない。
『自習か?』と思ったりもしたが、それなら自習のプリント、又は課題を違う先生が持ってくるはず。
そんなことを考えていると、廊下が急に騒がしくなり、皆廊下を見る。
すると廊下にはとても綺麗な女の人が立っている。その人が、古典の先生を呼び止めたらしく話をしていた。
その時俺は、先生がつかまってるなら授業ないし、ラッキーなどと考えていた。
が、しかし先生は息を切らして教室まで来た。
「今日は自習!」
一言放ち、また女の人の所へと走っていった。訳がわからないが、まぁ授業がないならそれはそれで・・。
にしても今日は全くおかしな日だ・・内心そう思っていると顔をくもらせた龍が目の前に立っていた。
「ったくバカだよなぁ。自習なんてまともにやるわけないのにさ」
話し声はいつも通りだったが顔つきは全くかわらなかった。
龍のくもった表情をみると、俺はもう一人のルームメイト『稜平』のことを思い出す。
キーン・・コーン 
六限目終業のチャイム。
俺は特に学校にいる用事がなかった為すぐに寮へと戻った。
すると俺たちの部屋の前、302号室前にいかにも女の子という感じの子が立っている。
「あの、どうしたんですか?ここに何か用事でも」
「あぁ・・龍くんにこの手紙渡しておいてください。それだけです。では、私はこれで失礼します」
外見とは全く正反対の大人っぽい、しっかりした人であった。
受け取った手紙を勝手にみるわけにはいかないが、封筒の裏には『SAKURA』
と書かれていた。まぁ、龍の手紙だし俺には関係ないよな。
「けーーい?」
急に背後から声がし、俺は驚いていた。後ろを振り返ると、龍がいる。
「あ、この手紙龍になんだけど・・」
手紙を渡そうとしたとき、龍はとまどっていた。
「SAKURA・・か」
ボソボソと言った龍の声が聞こえる。複雑な表情をしている。
「あ、慶・・メシ食いに行こう!確か今日はカレーだったよな」
龍はそういうのだが、今はまだ五時・・メシには早い。う〜ん・・なんといったらいいのだろう。
俺は本当に不器用だ。
「あのさぁ、メシにはまだ早いよ・・まだ五時だし」
その言葉に、しまったというような顔をして部屋へと入っていった。
「俺、今日疲れてるからちょっと寝る・・メシの時間になったら起こして」
まぁ、起こすぐらい別にどうってことはないけど
「別にいいけど、ちゃんとおきてくれよ・・お前は・・」
「ねぼすけだからな」
いきなり俺達の部屋の戸をあけた奴が叫んだ。
「稜・・平」
その声に龍が反応する。えっ!?『稜平』ってもう一人のルームメイトだよな・・
「おい、大切な人が来たのに龍、お前は何寝ようとしてるんだ。お前のメシ全部食べるぞ」
「うるさい!!黙れ!俺は体の調子が悪いんだ!!」
その様子をみていた俺は、決して仲がいいとは言えない二人なのだと確信した。
知り合いではあったみたいだけど、俺がいる場所が全然なくて部屋を出ることにした。
【あとがき】
久々に本編をかいてみました。本当はもっと長いのですが
あまりにも長いので、もう少しわけて書きます。
にしても性格といい話し方といい変わりすぎ・・(笑
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